初めて
お客様ホテル先入りの仕事で
ラブホにひとりで
向かった日のことを
今でも、よく覚えている。
お客様先入りとは
お店によって
呼び名が違うかもしれないけれど
お客様が先に
ラブホやビジホに入室し
部屋番号を店に伝え
そのお部屋に
キャストの女の子が
伺うシステムのことだ。
路上待ち合わせが
スタンダードの店だから
あえて、こういうのかもしれない。
業界のルールを知らなかった私は
大失敗した。
ラブホのフロントを通り過ぎて
まっすぐ部屋に
向かおうとしてしまったのだ。
ひとこと
声を掛けたら良かったのに、、
初心者の私は、なんと言ったら良いのか
考えあぐねいてしまい
スルーすることにしたのだった。
正直言うと、面と向かって
ラブホのフロントの人に
仕事で来たと伝える勇気が持てなかったのだ。
私がフロントを通り過ぎて
エレベーターを待っていると。
フロント係のおばさんが
現金や鍵の受け渡しをする小窓に
顔をくっつけるようにして
甲高い声で罵声を浴びせてきた。
「ちょっとあんた!どこ行くの!?勝手に入ってんじゃないよ!!フロントで許可取るのが普通でしょ!?常識ないわね!!どこの店の女!?」
私はびっくりして身を硬くし
振り返って、とにかく謝罪した。
それでも怒りの収まらないおばさんは
フロントにある従業員用のドアを開けて
ロビーに飛び出すと
仁王立ちになり
私を指差しながら非難した。
髪を引っ詰めてアップにした
お団子ヘアのためか
目尻が吊り上がっていて。
唾を飛ばしながら、早口でわめいた。
罵りながら
ボルテージが加速していくようで。
常識もないから
こんな仕事をするのだろうと
私の人格まで罵り始めた。
これは余りにも過剰反応だと
途中でおばさんの憂さ晴らしか?
更年期障害か?
と思ったけれど。
何か言い返す立場でもないから
引っ詰めおばさんの
怒りの嵐が過ぎ去るまで
私はただただ
低姿勢でごめんなさい
と繰り返し頭を下げたのだった。
今はフロントに
「◯号室の連れですが」
と言うことに
なんのためらいもないけれど。
仕事の女と見られることに
始めはずいぶん抵抗があった。
普通の主婦から
風俗の仕事を始めた人なら
きっと誰もが通る道かもしれない。